ライター:大河原 麻里

娘二人の母。二人共大学生になり、以前より好きだったワインを楽しむ時間も増え、ワインラヴァ―からワインオタクになってきた昨今です。

親の影響で成人直後からワインには親しんでいましたが、私が大学生の頃、父親が東京のフレンチレストランを制覇する勢いで、上京してレストラン巡りをしていたためそこに同行し、美食と、西洋の料理にワインがなくてはならない存在であること、その魅力、美味しさを知りました。その頃がワイン好きの始まりです。有難いことにその頃のワインの値段は、今よりずっとずっとお手頃でした。ですから、ロマネコンティを 含むDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ社) のワインや、シャンパーニュ、ボルドーの五大シャトーなど、ちょっとした機会に頂くチャンスは多くありました。
二十代の小娘がちょっと背伸びと奮発すれば、友人のバースデーにDRCのロマネサンヴィヴァンをデパートのワイン売り場で購入できた、そんな最高の時代でした。そんなワイン人生のスタートでしたが、好きなワインは?と聞かれれば、その頃から変わらず、迷わずシャンパーニュ、ブルゴーニュと答えます。私にってこの二つの産地は、樹海のように広くて深く、一度足を踏み入れたら容易には抜け出せない魅惑の森です。

 

しかし、最近は新たな楽しみ方も覚えました。子供達の手が離れ、偏った知識ではなくワインを体系的に学びたいと不意に思い立って、ワインスクールの門を叩きました。ワインエキスパートも取得し、体系的な知識を得たことと、沢山のワイン愛好家の仲間との交流を持つ中、ワインの世界の幅広さ、自分が知らなかった産地のワインの魅力、違った楽しみ方を知りました。例えば、単体で飲んであまり好みでないワインでも、合わせる食材や料理と見事にマリアージュすると、途端に美味しく感じ、その食卓は何倍も魅力的なものになります。
そのワインの個性を知り、良さを引き出すことができれば、ちょっとした魔法使いにでもなれた気分です。日々の食卓での、家庭料理とテーブルワインのマリアージュ検証は、エキスパート取得後の新たな楽しみとなりました。

 

私がワインに対して大事にしたいと思う拘りは、5W1Hです。いつ、どこで、誰と、どんなワインを、どんな状況の中、どのように飲むか、別に大仰な理由で特別なワインを飲む、ということではありません。その辺のスーパーで買ってきたワインでも、超高級ワインでも、どんな時に誰とどんな風に飲むかで、残念な味わいに感じてしまうか、一生の思い出に残る一本になるか、大きな違いになると思っています。ことウィンラヴァ―は、どんなワインを飲んだか、に焦点を当ててしまいがちですが、一番大切なことは忘れずにワインに向き合っていきたいと思います。

 

長年ワインを飲んできたので、忘れられないワインは複数存在します。ブルゴーニュ、世界ナンバーワンといわれるあのワインの状態が最高だった時は、後頭部をハンマーで叩かれたような衝撃でしたし、他にも挙げれば色々あります。でも今何か一つといわれたら思い出すのは・・・昨年、しばらく寝かせてあったブルゴーニュのメゾンルロワのヴォーヌロマネ1980を開けました。ボトルが私を開けて!とこちらに叫んでいる感じがしたのです。
ちょうど家族そろって連休をのんびり過ごしている時でした。ルロワといえばブルゴーニュの有名生産者ですが、ルロワのワインにも、最高峰のマダムルロワ個人所有のドメーヌドーヴネ、自社栽培のドメーヌ物、買いぶどうで 生産す るメゾン物とがあります。その時の物はメゾン物、しかもグランクリュでもプルミエクリュでもないヴィラージュクラスです。ワイン教本的には、ヴィラージュクラスはブルゴーニュの赤ワインとはいえ、35年以上持つ、とは考えられていません。でも抜栓前のボトルの外観からして、色合いも艶めき輝き澄んでいて、期待値上げずにいられない程の美しさ。
グラスに注ぐと、途端に香りは華やかで妖艶で、反して味わいはまだまだ若いともいえるベリー満載の果実感。熟成したものだけが持つ複雑さと同時にまだまだパワフル。普通のブルゴーニュグラスで飲み始めましたが、思わず我が家の真打登場、バカラのロマネコンティというボールのような大きなグラスに変えました。

 

ワイ ンは、教科書通りでもなけれ ば格でもない。真摯にワインと向き合う生産者の良いつくりをしたワインを大事に扱い、飲みたい!と思った、機が熟したタイミングで、素敵な仲間と一緒に分かち合う、これこそが最高の贅沢、ワインラヴァ―の幸せの極みと思い知らされた一本でした。そんなワインに出会うと、まだまだ樹海からは抜け出せそうにはありません。それに何より、世界にはまだまだ知らない魅惑的なワインが沢山。シャンパーニュ、ブルゴーニュだけではない、新たな美味しさに出会うべく探求はまだ始まったばかりです。